KRPC Ambassador Letter クリルオイルの健康促進と疾病予防の最新情報

[Vol.10] 健康な細胞が、健康な身体をつくる Part8猛暑の後、疲れやすさの正体は細胞膜とミトコンドリアにあった!

前回(Vol.9)までは、細胞膜の9つの役割のうち

「1.物質の選択的透過性」
「2.情報伝達(シグナル伝達)」
「3.細胞の保護・防御機能:守りの壁」
「4.細胞の形状保持と構造の保持:袋と骨組み」
「5.細胞間のコミュニケーション:他の細胞との「チームプレー」」

について取り上げ、それらの特徴が損なわれた場合に身体にどのような不調や影響が出るのかをお伝えしました。

今回は、「6.エネルギー代謝・物質輸送:栄養やエネルギーの“通路”」についてご説明していきます。

猛暑の後、疲れやすさの正体は細胞膜とミトコンドリアにあった!

近年、地球規模での気候変動により、記録的な熱波や異常高温の猛暑は、年々厳しさを増しています。「猛暑日」が増え、熱帯夜が続く日々、身体は熱ストレスや脱水、電解質の喪失といった負荷にさらされます。私たちが普段感じる「だるさ」や「疲れやすさ」、さらには甘いものが無性に欲しくなる現象も、実はこうした異常高温や熱波が引き金になっていることがあります。

暑さは肌や体感だけでなく、細胞レベルでのエネルギー供給システムにも影響を及ぼしています。身体のあらゆる活動に必要なエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)という分子の形で作られます。ATPは「細胞の働きに必要な燃料のようなもの」であって、筋肉の収縮、神経の信号伝達、栄養の取り込みなど、細胞のすべての働きを支える重要な存在です。

そして、そのATPを作る「発電所」がミトコンドリアです。ミトコンドリアは栄養素や酸素を使ってATPを効率よく生成し、私たちが日常生活で活動するために必要なエネルギーを供給します。しかし、高温や熱ストレス(*1)、酸化ストレス(*2)によって細胞膜やミトコンドリア膜の機能が低下すると、ATPの生成効率は落ち、身体はエネルギー不足状態に陥りやすくなります。結果として、疲労感や甘いもの欲求、肌や髪のコンディションの低下など、さまざまな不調が現れやすくなるのです。

*1 体温より高温環境下や暑さの影響で、身体が過剰に熱を受けることで起こるストレスのこと。

*2 活性酸素などが増えすぎて細胞や組織にダメージを与える状態。

ここで注目したいのが、ATPを作るミトコンドリアに栄養や酸素を届ける「通路」=細胞膜の役割です。この通路がスムーズでないと、いくら栄養を摂っても効率的にATPを作ることはできません。

今回は、細胞膜が担っている9つの役割のうち、「6.エネルギー代謝・物質輸送:栄養やエネルギーの“通路”」についての機能が損なわれたときに、私たちの身体にはどのような不調や変化が現れるのかをご説明していきます。

【細胞膜の9つの役割】

ミトコンドリアのいろは。

  • ミトコンドリアとは?
  • 細胞の中にある小さな器官(細胞小器官)です。
    ATP(アデノシン三リン酸)を作って、細胞が働くためのエネルギーを供給します。
    例えると、「細胞のエネルギー工場」や「細胞の燃料製造所」。

  • どこにあるの?
  • ほとんどの真核細胞(ヒトの身体の細胞など)に存在します。
    ただし、赤血球のように核もミトコンドリアも持たない細胞もあります。

  • 数はどう決まる?
  • 細胞の種類や活動量によって異なります。
    心筋細胞:数百~数千個、エネルギー消費が多いことからです。
    骨格筋細胞(持久筋):多め、運動量によって増えることもあります。
    肝細胞・腎臓の尿細管細胞:多い
    神経細胞:局所的に集まります。
    エネルギーが必要な細胞ほどその数は多くなります。

  • 特徴?
  • 二重膜構造:外膜と内膜で区切られています。
    独自のDNAを持つ:タンパク質を自らで作れる部分もあります。
    柔軟に変形する:融合・分裂を繰り返し、細胞の状態に応じて数や形を変えます。

  • 何をするの?
  • 栄養素と酸素を使ってATPを作ります。
    細胞活動に必要なエネルギーを提供します。

      

ミトコンドリア

6. エネルギー代謝・物質輸送:栄養やエネルギーの「通路」

生活習慣や生活環境による影響の可能性
  • 食生活の偏り
  • 高脂肪・高糖質・過度な加工食品は、細胞膜の脂質組成を乱し、栄養素やエネルギーの効率的な出入りを妨げます。

  • 運動不足
  • ミトコンドリアの機能が低下し、エネルギー代謝全般が鈍化します。

  • 喫煙・過度の飲酒
  • 酸化ストレスで膜が傷つき、栄養輸送の効率低下を招きます。

  • 睡眠不足・ストレス
  • ホルモンバランスの乱れがエネルギー代謝を阻害します。

  • 環境汚染物質
  • 大気汚染や化学物質にさらされることにより、細胞膜の脂質が酸化されやすくなります。

  • 酷暑
  • 今夏のような暑さは、体温の上昇や熱ストレスを引き起こし、細胞膜や細胞内のミトコンドリアに影響を与える可能性があります。

      
細胞膜への影響
① 脂質二重層が硬化

細胞膜の流動性が低下し、トランスポーターやチャネルの働きが鈍ります。

② 脂質二重層が軟化

高温環境で体温が上がりすぎると、細胞膜の脂質が柔らかくなりすぎたり、不安定になったりします。

③ 暑さによる発汗

発汗で水分・ナトリウム・カリウムなどが失われると、細胞膜を介したイオン輸送が滞り、エネルギー生成や物質輸送の効率が低下します。

④ 酸化脂質の増加

栄養やイオンの通過効率が低下。紫外線や高温は体内の活性酸素を増やし、細胞膜の脂質を酸化させてしまう原因にもなります。

⑤ ATP合成との連携不良

ミトコンドリアからのエネルギー供給の受け渡しがスムーズにいかなくなります。

機能の低下による不具合

・栄養(糖・アミノ酸・脂肪酸)が効率的に取り込めなくなります。

栄養素は細胞膜を通って細胞内に取り込まれます。

糖(グルコース)の場合 細胞膜にあるグルコース輸送体を介して取り込まれますが、細胞膜の機能低下やインスリンシグナルの異常によって取り込みが減少します。
結果として、ATP生成に必要なエネルギー源が不足して、疲労感や集中力低下、そして甘いものが欲しくなったりします。
アミノ酸の場合 細胞膜のアミノ酸輸送体を通して細胞内に入りますが、細胞膜の流動性や輸送体の働きが低下すると、タンパク質の合成や修復に必要な材料が不足します。
結果として、筋肉の回復遅延や免疫力低下などに影響が出やすくなります。
脂肪酸の場合 脂肪酸は、細胞膜を通って細胞内に取り込まれて、細胞内のミトコンドリアでβ酸化()され、ATP生成に利用されます。細胞膜や輸送体の異常で取り込みが減ると、持久力やエネルギー効率が低下を招きます。
長期的には、脂質代謝異常や内臓脂肪増加の原因になることもあります。

* β酸化とは、脂肪酸を小さく切ってエネルギーに変えるしくみのことです。脂肪酸そのままでは利用することができないため、2炭素ずつ切ってアセチルCoAに変えます。これをミトコンドリアで行い、最終的には身体が利用できるATPとなります。

・エネルギー供給が滞り、細胞の働きの全般が低下します。

ミトコンドリアで作られるATPは、細胞の活動に必要なエネルギーの源ATPが十分に供給されないと、細胞内のあらゆる反応や活動が影響を受けます。

影響される主な細胞の働き

細胞機能 詳細な影響
筋肉の収縮 ATP不足により筋繊維の収縮力が低下 → 疲れやすくなる、運動後の回復が遅れる
神経伝達 神経細胞のポンプやシナプス活動が低下 → 集中力や思考力、記憶力の低下
物質輸送 イオンポンプや栄養輸送が滞る → 栄養素や老廃物の取り込み・排出が不十分になる
タンパク質・脂質
核酸の合成
細胞の成長や修復、酵素やホルモンの生産が遅れる
→ 免疫力低下、肌や髪の健康に影響
代謝反応全般 糖や脂肪の分解効率が落ちる → エネルギー不足がさらに悪化、代謝異常につながる

・老廃物や不要物の排出も滞ります。

細胞内では代謝やエネルギー消費によって、老廃物や不要物(乳酸、アンモニア、過酸化物など)が生じます。これらは、細胞膜を通じて排出されて、体液や血流を通じて最終的に体外に処理されます。しかし、細胞膜のナトリウム・カリウムポンプや老廃物輸送体がうまく働かないことにより、細胞内に老廃物が滞留してしまいpHやイオンバランスが乱れてしまいます。また、この高温状態や酸化ストレスにより、細胞膜が柔らかすぎたり、硬すぎると細胞膜の輸送体やポンプの働きが低下します。
結果として、疲労感やだるさが増したり、肌のくすみ、むくみ、体臭などの変化が現れやすかったりします。また、運動後の回復が遅延しやすくなります。

・細胞膜輸送体(トランスポーター)の異常により、特定の栄養欠乏症が起こりやすくなります。

細胞膜輸送体とは、細胞膜に存在する専用の通路や運び屋ですが、糖(グルコース)、アミノ酸、脂肪酸、ビタミン、ミネラルなどの特定の栄養素を細胞内に取り込む役割を担っています。これらの輸送体の数が減ったり、機能が低下したりすると、必要な栄養が細胞内に届かないことになります。つまり、血液中には栄養が十分にあっても、細胞が栄養不足の状態になってしまいます。

実際に起こりやすい例としては下記の通りです。

糖(グルコース)輸送体の異常 インスリン抵抗性、糖尿病につながり、エネルギー供給不足
アミノ酸輸送体の異常 筋肉や神経伝達物質の合成に影響し、筋力低下や気分障害を招く可能性
鉄輸送体の異常 鉄欠乏性貧血につながる
ビタミン(例:ビタミンCや葉酸)
輸送体の異常
抗酸化力やDNA合成に支障をきたす

細胞膜輸送体の異常は、血液検査で「足りている」と出る栄養素であっても、実際には、細胞で使えていないという「隠れ栄養不足」を引き起こすのが大きな特徴です。つまり、「食べているのに元気が出ない」「必要な栄養が吸収できない」という現象は、細胞膜や細胞膜輸送体の状態に直結しているとも考えられるのです。

起こりやすい不調や目に見える変化
  1. 慢性的な疲労・倦怠感(エネルギー不足)
  2. 甘いものや炭水化物を欲する頻度の増加
  3. 集中力低下や頭が重い感覚
  4. 筋肉の衰えや運動後の回復遅延
  5. むくみや冷え(イオン輸送の乱れ)
  6. 肌のくすみ・乾燥(細胞のターンオーバー低下)
  7. 髪のハリ・コシの低下

関連する疾患や症状、病態(病気につながる体内の状態)

項目 説明 主な影響・特徴
糖尿病 インスリンシグナルと膜のグルコース輸送体の働きが乱れる 血糖コントロール不全、細胞へのエネルギー供給低下、全身の代謝異常
メタボリック
シンドローム
脂質輸送や代謝が滞る 内臓脂肪の増加、脂質異常、血圧上昇、心血管リスク増
神経変性疾患
(アルツハイマーなど)
エネルギー代謝異常と膜の機能低下が関与 神経細胞の機能低下、記憶力や認知機能の低下、神経変性進行
心疾患 エネルギー不足が心筋細胞の働きを弱める 心拍出量低下、疲労感、心不全リスクの増加
慢性疲労症候群 細胞レベルでのATP供給不全が報告されている 全身の慢性的な疲労感、回復力低下、生活の質の低下
美容・アンチエイジング面での影響
  • 細胞の代謝・ターンオーバー低下
  • 肌の古い角質が剥がれ落ちにくくなる・肌のハリ・透明感の低下、しわ・たるみの進行

  • 老廃物の排出不全
  • くすみ、毛穴の開き、むくみ

  • エネルギー不足
  • 髪や爪が弱くなる

  • 酸化ストレス蓄積
  • シミ・老化サインの加速

      
今回のまとめ

猛暑は身体だけでなく、細胞がエネルギーを使う働きにも負担をかけます。 身体はより多くのエネルギーを消費し、汗や代謝活動を通じて老廃物の排出も活発になります。栄養やエネルギーの取り込み、老廃物の排出を担う「通路」としての働きは、細胞膜の質に影響を受けやすいとされています。 さらに、エネルギーを生み出すミトコンドリアの膜もリン脂質二重層でできており、膜の柔軟性や安定性が細胞のエネルギーづくりや機能に関わっていると考えられています。

一方で、細胞膜の働きが十分でないと、細胞の栄養の取り込みや老廃物の排出がスムーズに進みにくくなることがあります。 暑さの影響を受けやすいこの時期こそ、日々の生活の中で細胞膜の健康を意識することが大切です。

~ お知らせ ~

「細胞膜の9つの役割」をご説明した後、弊社団の最高科学顧問・矢澤一良博士に皆様のご質問をお訊きする新企画『矢澤博士に聞いてみた(仮題)』をスタートいたします。

そこで、読者の皆様から矢澤博士へのご質問を募集いたします。
食と健康について、またクリルオイルについてなど身近な疑問をお寄せください。

       
  1. Katare PB, Dalmao-Fernandez A, Mengeste AM, Navabakbar F, Hamarsland H, Ellefsen S, Berge RK, Bakke HG, Nyman TA, Kase ET, Rustan AC, Thoresen GH. Krill oil supplementation in vivo promotes increased fuel metabolism and protein synthesis in cultured human skeletal muscle cells. Front Nutr. 2024 Oct 28;11:1452768. doi: 10.3389/fnut.2024.1452768. PMID: 39555189; PMCID: PMC11565515.
  2. Dalmao-Fernandez A, Katare PB, Bakke HG, Hamarsland H, Ellefsen S, Singh S, Nyman TA, Kase ET, Rustan AC, Thoresen GH. The use of three-dimensional primary human myospheres to explore skeletal muscle effects of in vivo krill oil supplementation. In Vitro Model. 2025 Apr 30;4(2):145-155. doi: 10.1007/s44164-025-00087-6. PMID: 40708816; PMCID: PMC12283505.
  3. Ferramosca A, Conte A, Zara V. Krill Oil Ameliorates Mitochondrial Dysfunctions in Rats Treated with High-Fat Diet. Biomed Res Int. 2015;2015:645984. doi: 10.1155/2015/645984. Epub 2015 Aug 2. PMID: 26301251; PMCID: PMC4537729.