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[Vol.17]冬に知っておきたい脂肪の新常識減らすより整える。身体が自然に選ぶ脂肪の正しい活用法
新シリーズ『矢澤博士に聞いてみよう!!』の第4回です。
読者の皆様よりお寄せいただいたご質問に、矢澤博士が科学的な視点で解説する形式でお届けします。
今号の「読者からのご質問」は
身体は、脂肪を
- 体温を保つ
- 細胞を守る
- エネルギーを安定させる
問題になるのは、「体内に入った脂質が体内に入り、エネルギーや材料として活かされず、脂肪として残ってしまうこと」なのです。
今回のテーマ
「脂肪は必要。でも、身体は“使えるかどうか”で選別している。」
今号は、「脂肪とのつきあい方」について、矢澤博士に詳しく教えていただきます。
プロフィール
農学博士 矢澤 一良 先生
(Kazunaga Yazawa)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長
| 1972年 | 京都大学・工学部・工業化学科 卒業 |
| 1973年 | (株)ヤクルト本社・中央研究所入社、微生物生態研究室勤務 |
| 1986年 | (財)相模中央化学研究所入所(主席研究員) |
| 1989年 | 東京大学より農学博士号を授与される |
| 2002年 | 東京水産大学大学院(現東京海洋大学大学院) 水産学研究科 ヘルスフード科学(中島董一郎)寄附講座(客員教授) |
| 2012年 | 東京海洋大学 特定事業「食の安全と機能(ヘルスフード科学)に関する研究」プロジェクト(特任教授) |
| 2014年 | 早稲田大学ナノ理工学研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門(研究院教授) |
| 2019年より現職 | |
| ライフワークは、「食による予防医学」、「オール世代フレイル対策」など。 | |
冬に知っておきたい脂肪の新常識
減らすより整える。身体が自然に選ぶ脂肪の正しい活用法
「脂肪」「脂質」という言葉が出てきますが、日常では同じ意味で使われることも多く、混乱してしまいます。この違いから教えていただけますか。
最初にここを整理しておかないと、今回の話題は誤解されやすくなります。
まず 「脂質」 とは、栄養学・生理学的な言葉で、油・脂肪酸・リン脂質などを含む 「成分・素材」 の総称です。
私たちが食事から摂る油、魚の脂、クリルオイルに含まれるEPA・DHAなどは、すべて「脂質」に含まれます。
一方 「脂肪」 とは、身体の中で脂質が貯蔵された状態を指す言葉です。
いわゆる「体脂肪」「皮下脂肪」「内臓脂肪」と呼ばれるものです。
つまり、
- 脂質:身体に入ってくる素材・材料
- 脂肪:身体の中で蓄えられた結果の状態
今回は、
「どんな脂質が体内に入るのか」。そして「その脂質が体の中で使われるのか、それとも脂肪として残るのか」。この2つに注目します。
これを知ると、「脂肪=悪者」という単純な考えでは語れないことが、自然と見えてきます。
[冬の身体は、なぜ脂肪を必要とするのか]
寒い環境において、身体は脂肪を安定して確保しようとする。
冬は、
- 体温を維持する
- 内臓や細胞を冷えから守る
- エネルギー供給を安定させる
寒い環境では、身体は「エネルギーをすぐに使い切る」よりも、「安定して確保する」方向へと働きやすくなります。
このとき、身体は無差別に脂質を使うわけではありません。実はとても静かに、しかもしっかりと選別をしています。
[身体は脂肪を“量”ではなく“質”で判断している]
脂肪をカロリーの数値だけではみていない。
身体は、脂肪をカロリーの数字だけで判断をしていません。
- 細胞膜に使えるか
- 炎症を起こしにくいか
- 低温でも固まりにくいか
[脂肪が“たまってしまう”本当の理由]
脂肪が蓄積されるのは、「余ったから」だけではない。
身体の中では、
- 今すぐ使って安全か
- 燃やして負担にならないか
- 細胞を傷つけないか
その結果、
「今は使わない方がいい」と判断された脂質は、エネルギーとして燃やされるのではなく、防御的に脂肪として貯蔵されます。
脂肪は、怠けているから溜まるのではなく、身体を守るために、必要に応じて蓄えられる場合があるのです。
[身体が“使わない”と判断しやすい脂質とは]
4つの代表例
◆酸化した脂質
◆トランス脂肪酸
◆オメガ6脂肪酸の過剰
ただし、摂りすぎると体内で炎症を起こしやすくなるという側面があります。
そのため炎症リスクが高い状態では、過剰に存在するオメガ6脂肪酸は、すぐにエネルギーとして使われにくくなるのです。
◆高度に精製された油
これらは無味無臭で扱いやすい反面、製造過程で微量栄養素や抗酸化成分などの自然な脂質構造がほとんど取り除かれています。
身体にとってはエネルギー源にはなっても、積極的に使う意味が少ない脂質と判断されやすくなります。
[冬の身体と脂質の関係]
比較的質の良い脂肪が優先
結論からいうと、質の悪い脂質でできた脂肪は、使われにくい傾向があります。
身体は、「燃やすことでダメージが出る可能性がある脂肪」を優先的には使いません。
そのため、体温維持やエネルギー供給には、比較的質のよい脂肪が優先的に使われます。
[なぜ“減らそう”とすると逆効果なのか?]
いきなり減らすと、身体は危険だと判断する。
結果として、
- 体脂肪は減りにくい
- 体温が下がる
- さらにため込みやすくなる
[質の悪い脂質はどうすればいいのか?]
質の悪い脂質を減らす順序
と考えてください。
ポイントは3つです。
- 新しく入れる脂質の質を上げる
- 細胞膜をしなやかにする
- ミトコンドリアが働ける状態をつくる
このように環境が整うと、身体は自然と「使える脂肪」を選ぶようになります。
ここでは「質の悪い脂質」を減らすのに重要なポイントを順を追ってみましょう。
- ① まず「使える脂質」を身体に入れる
- 使いやすい脂質が十分にある
- 細胞膜が安全に保たれている
- 酸化していない
- 炎症を起こしにくい
- 細胞膜に組み込まれやすい脂質
- EPA・DHA
- リン脂質型で存在する脂質
(代表例がクリルオイル) - ② 細胞膜を構成する脂質の「入れ替え」を進める
- 日々少しずつ入れ替わる
- 良質な材料があれば入れ替えが進む
- 細胞膜が柔らかくなる
- 情報伝達が回復する
- 代謝の指令が通りやすくなる
- ③ ミトコンドリアを「燃やせる状態」に戻す
- 活性酸素が増える
- さらに炎症が進む
- 無理に燃やすことではなく「燃やせる余裕」をつくること
- ミトコンドリアの膜構造を支えエネルギー効率を高めます
- ④ 「守り」から「巡り」へ体の判断を切り替える
- 冷え
- 栄養不足
- 酸化ストレス
- 慢性的な疲労
意外に思われるかもしれませんが、最初にやるべきことは 良質な脂質を補うことです。
身体は、
と判断してはじめて、「古い・質の悪い脂質」を入れ替え対象として認識します。
具体的には、
たとえば、
こうした脂質が、入れ替えのためのスイッチになります。
質の悪い脂質は、体脂肪としてだけでなく、細胞膜そのものにも混在しています。
細胞膜は、
という性質があります。
良質な脂質が入ることで、
この状態になって初めて、身体は「古い脂質を外に出しても大丈夫」と判断します。
質の悪い脂質がたまっている身体では、ミトコンドリアも疲れています。
その状態で無理に燃やそうとすると、
という逆効果になります。
必要なのは、
良質な脂質は
結果として、
古い脂質を燃やす余力を生み出します。
身体が質の悪い脂質をため込むのは、守りのモードに入っているからです。
これらがあると、身体は「捨てる」「燃やす」より「守る」「保管する」を選びます。
良質な脂質が十分にある状態は、「もう守らなくていい」「体内で巡らせても安全」というサインになります。
その結果、質の悪い脂質は少しずつ使われ、排出されていくという流れが起こります。
[良質な脂質が果たす役割]
寒冷な海に生きる生物の知恵
- 低温でも固まりにくい
- 細胞膜になじみやすい
- 炎症を過剰に起こしにくい
こうした性質を持つ脂質です。
その代表例のひとつが、クリルオイルに含まれる脂質です。
クリルオイルは、リン脂質型のEPA・DHAを含み、細胞膜との親和性が高いことが特徴です。
これは、寒冷な南極の海で生きる生物が、低温でも細胞機能を保つために持っている脂質構造と密接に関係しています。
[削るより、巡らせる]
脂肪は悪者ではない
- 無理に減らそうとしない
- 質のよい脂質を選ぶ
- 使える環境を整える
この積み重ねによって、
脂肪は自然と「ため込まれる存在」から「使われる存在」へ変わっていきます。
正しく使われれば、身体を守り、巡りを支え、安定した代謝を生み出します。
大切なのは、脂質を燃やせる、エネルギーに変えられる、体脂肪として固定しにくい身体の土台を整えることです。
[今回のまとめ]
脂肪は、身体の知恵そのもの
ただ、その「質」を静かに見極めているだけです。
正しく選ばれ、正しく使われる脂質は、冬の身体を支える重要な味方になります。
脂肪は恐れるものでも、削るものでもなく、身体と協力する存在なのです。
次回も、「矢澤博士に聞いてみよう」をお楽しみにお待ちください。
読者の皆さまからのご質問やご意見などを引き続きお寄せください。
ご質問は、contents@krilloil.or.jpまでお送りください。
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