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[Vol.21]春を軽やかに歩くために- 歩く力を支える身体の内側 -
新シリーズ『矢澤博士に聞いてみよう!!』の第8回です。
読者の皆様よりお寄せいただいたご質問に、矢澤博士が科学的な視点で解説する形式でお届けします。
今号の「読者からのご質問」は
冬の寒さが少しずつ和らぎ、街を歩くのが気持ちよい季節が近づいてきました。春になると、散歩や旅行、ちょっとした外出など、身体を動かす機会が自然と増えていきます。
実は、歩く力は筋肉だけで決まるものではありません。血流、神経、関節、そして一つひとつの細胞の働きなど、身体のさまざまな仕組みが連携して生まれるものです。
今回は、春のお出かけを軽やかに楽しむために、歩く力を支える身体の内側の仕組みについて、矢澤博士に詳しくお聞きします。
プロフィール
農学博士 矢澤 一良 先生
(Kazunaga Yazawa)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長
| 1972年 | 京都大学・工学部・工業化学科 卒業 |
| 1973年 | (株)ヤクルト本社・中央研究所入社、微生物生態研究室勤務 |
| 1986年 | (財)相模中央化学研究所入所(主席研究員) |
| 1989年 | 東京大学より農学博士号を授与される |
| 2002年 | 東京水産大学大学院(現東京海洋大学大学院) 水産学研究科 ヘルスフード科学(中島董一郎)寄附講座(客員教授) |
| 2012年 | 東京海洋大学 特定事業「食の安全と機能(ヘルスフード科学)に関する研究」プロジェクト(特任教授) |
| 2014年 | 早稲田大学ナノ理工学研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門(研究院教授) |
| 2019年より現職 | |
| ライフワークは、「食による予防医学」、「オール世代フレイル対策」など。 | |
春を軽やかに歩くために
「歩く力を支える身体の内側」
第1章|歩く力は「身体のチームワーク」
歩くという動作には、筋肉・関節・神経・血流・脳の5つが同時に関わっています。どれかひとつが弱まるだけで、歩く力全体に影響が出てきます。「歩く力=筋肉だけの問題」と思いがちですが、実際にはこの5つが連携して初めて、スムーズで疲れにくい歩行が生まれるのです。

【図解①】歩くを支える5つの主役
血流が良い状態であれば、筋肉に酸素や栄養が届き、神経の働きも安定します。反対に血流が滞ると、「足が重い」「すぐに疲れる」という感覚が出やすくなります。血流は、他の4つの働きを下から支える"土台"とも言えます。
寒さによって血管が収縮すると、血流量が少なくなります。加えて冬は自然と室内にいる時間が増えるため、筋肉をあまり使わない日が続きます。筋肉は使わないと少しずつ「縮こまった」状態になり、春に急に動かそうとすると負担を感じやすくなるのです。

【図解②】冬に起きやすい身体の3つの変化
第2章|冬の間に起きやすい身体の変化
これは生命を守るための正常な反応です。しかし、それが長く続くと、足の筋肉への血流が慢性的に低下した状態になりやすい。血流が減ると、酸素や栄養の供給も減り、筋肉の疲れが取れにくくなったり、動き始めが重く感じられたりします。
筋肉の細胞は本来、ゴムのように柔軟に伸び縮みします。しかし、寒さや運動不足が続くと、筋肉の細胞膜(細胞の外側を包む薄い膜)が硬くなってきます。細胞膜が硬くなると、筋肉全体の「しなやかさ」が失われ、これがいわゆる「こわばり」の一因になります。
細胞膜の「かたさ」が筋肉のしなやかさに影響する
筋肉の温度も上がり、細胞の動きが活発になります。これだけで「足が軽くなった」と感じる方も多いはずです。ただし、冬の間に活動量が落ちていた場合は、筋肉量や細胞の質が低下していることがあります。「暖かくなったのに、なんとなく前より疲れる」と感じる方は、その可能性があります。
第3章|歩く力を支える細胞の働き
細胞がうまく働いてこそ、全体の機能が維持されます。細胞が働くためには
- ①エネルギー(ATP)の産生
- ②血流による酸素・栄養の供給
- ③炎症のコントロール
この3つが重要です。
どれかひとつが乱れると、歩く力全体に影響が出てきます。
この膜は「リン脂質(りんししつ)」という脂の二重層でできています。この膜がしなやかであるほど、栄養を取り込んだり、神経の信号を伝えたりする働きがスムーズになります。逆に細胞膜が硬くなると、こうした機能が低下し、筋肉が疲れやすくなったり、神経の伝わりが鈍くなったりします。

【図解③】細胞膜(リン脂質二重層)の構造
ただし、「オメガ6が多いとすぐに硬くなる」というような単純な話ではありません。
大切なのは、脂質の“種類とバランス”です。
- 飽和脂肪酸が多い → かたくなりやすい
- 不飽和脂肪酸(特にオメガ3)が多い → やわらかくなりやすい
- コレステロール → 状態に応じて硬さを調整する
現代の食生活では、オメガ6が多く、オメガ3が少なくなりがちで、このバランスの乱れが細胞膜の働きに影響することがあります。
さらに年齢を重ねると、
- 脂質が酸化する
- 脂質の内容が変わる
といった変化が起こり、細胞膜は少しずつしなやかさを失っていきます。
ただし、慢性的に炎症が続いた状態(慢性炎症)になると、筋肉の分解が進んだり、疲労が蓄積しやすくなったりします。「特にどこか痛いわけではないのに、なんとなく疲れやすい」という状態は、こうした慢性的な軽度の炎症と関わっている可能性があります。

【図解④】急性炎症と慢性炎症の違い
第4章|オメガ3脂肪酸と身体のコンディション
オメガ3脂肪酸は、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が代表的です。どちらも青魚(サバ・イワシ・サンマなど)に多く含まれています。これらは身体が自分では十分に作ることができない「必須の脂質」で、食べ物から摂ることが重要です。
EPAは主に血流の改善・炎症バランスの調整・関節の柔軟性のサポートに関わります。
DHAは主に脳・神経の働きのサポート・細胞膜の柔軟性を保つ働き・筋肉細胞の機能維持に関与しています。一方向に「増やす」「減らす」というより、身体の中の環境を整えるという表現が近いと思います。

【図解⑤】EPAとDHAの主な役割
まず、オメガ3(EPA・DHA)を摂ることで細胞膜の柔軟性が改善すると、血流がスムーズになり、末梢の筋肉まで酸素が届きやすくなります。これにより、「より楽に動ける」状態に近づきます。日本脂質栄養学会の資料でも、「オメガ3脂肪酸は細胞膜の柔軟性を改善し、血流の改善や血圧の安定化を通じて酸素運搬力が向上する」という解説がなされています。
60歳以上の高齢者を対象とした複数の臨床試験を統合したメタ解析(2020年)では、1日2g以上のオメガ3摂取で筋肉量の増加効果が確認され、24週(約6ヶ月)以上の継続摂取で歩行速度の有意な改善が報告されています。特に注目したいのは「継続的な摂取」がポイントになっている点です。

【図解⑥】オメガ3摂取と筋肉・歩行への効果(データ)
※ 図解はAI生成。データ出典:Smith GI et al., Nutrients 2020 / 日本脂質栄養学会資料をもとに作成
- ▶1日2g以上のオメガ3摂取 → 筋肉量 +0.67kg の増加効果
- ▶24週(約6ヶ月)以上の継続摂取 → 歩行速度の有意な改善
- ▶対象:60歳以上の高齢者(複数の臨床試験を統合)
オメガ3摂取と筋肉・歩行への効果(メタ解析より)
出典:Smith GI et al., Nutrients 2020; 12(12):3739. / 日本脂質栄養学会資料より
オメガ3によって炎症バランスが整うと、運動後に生じる筋肉の炎症反応(筋肉痛や疲労感)が過剰になりにくくなると考えられています。国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解でも、オメガ3(DHA・EPA)の摂取が筋肉痛の軽減・持久力の向上に関与する可能性が報告されています。
これをサルコペニア(加齢や不活動によって筋肉量・筋力が減少すること)の初期段階と捉える研究者もいます。特に40〜50代以降は、意識せずにいると少しずつ筋肉の機能が落ちていきます。春に「なんとなく去年より疲れる」と感じたら、それはひとつのサインかもしれません。
第5章|リン脂質型オメガ3と細胞との関わり
主な形として「トリグリセリド型(魚油・フィッシュオイルなど)」と「リン脂質型(クリルオイルなど)」があります。細胞膜はリン脂質でできていますので、リン脂質型のオメガ3は、細胞膜の材料として使われやすい形であると考えられています。

【図解⑦】トリグリセリド型 vs リン脂質型の違い
一般的な魚油に含まれるオメガ3はトリグリセリド型と呼ばれる形が中心であり、リン脂質型とは異なります。クリルオイルにはオメガ3に加えて、抗酸化成分の「アスタキサンチン」や、神経・筋肉の働きに関わる「コリン」も含まれています。こうした複合的な構造の違いが、研究者から関心を持たれる理由のひとつです。
アセチルコリンとは、神経と筋肉の間で情報を伝える物質(神経伝達物質)のことです。持久的な運動(長距離の歩行など)をすると、コリンは消耗しやすいことが知られています。コリンが不足すると、筋肉への指令がうまく届きにくくなり、疲労感につながる可能性があります。

【図解⑧】コリン → アセチルコリン → 筋肉収縮の流れ
いきなり長距離を歩くのではなく、近所を少し歩くことから始めることが身体への負担が少なく、無理なく継続できます。その上で、食事から身体の環境を整えておくことも大切です。青魚を週に2〜3回食べる習慣、毎日10〜15分の歩行、こまめな水分補給、身体を温める習慣(入浴・温かい食事)――この組み合わせが大切です。身体の内側の環境を整えながら、少しずつ活動量を上げていくことが、春を軽やかに歩くための近道だと思います。

【図解⑨】春に向けて取り組みたいこと
まとめ:春を軽やかに歩くために、今できること
今回は「歩く力」を身体の内側から見つめ直しました。
歩くという動作は、筋肉・関節・神経・血流・脳のチームワークで成り立っています。そして冬の間に起きやすい活動量の低下や血流の変化は、そのチームワークに少しずつ影響を与えています。
細胞膜のしなやかさが失われると、筋肉も血管も、神経も本来の力を発揮しにくくなります。細胞の「素材」である脂質の質——特にオメガ3脂肪酸のバランス——は、身体のコンディション全体に関わる土台のひとつです。
春の到来に合わせて、身体を動かし始めることはとても良いことです。同時に、細胞の内側からコンディションを整える視点も持っていただけると、より軽やかな春のお出かけにつながるのではないでしょうか。
- 歩く力 = 筋肉+関節+神経+血流+脳の「チームワーク」
- 冬は血流低下・活動量低下・筋肉のこわばりが起きやすい
- 細胞膜のしなやかさが、筋肉・神経・血管の機能を支える
- オメガ3(EPA・DHA)は細胞膜の柔軟性・血流・炎症バランスに関わる脂質
- リン脂質型のオメガ3は、細胞膜と同じ素材の形で存在している
- 継続的な摂取(週2〜3回の青魚など)+適度な運動が基本

【図解⑩】今回のポイント まとめ
次回も引き続き読者のみなさまに寄り添った内容で、「矢澤博士に聞いてみよう」をお送りいたします。
読者の皆さまからのご質問やご意見などを引き続きお寄せください。
ご質問は、contents@krilloil.or.jpまでお送りください。
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- Smith GI, et al. “Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids and Skeletal Muscle: A Review of Recent Literature.” Nutrients 2020; 12(12): 3739. PubMed / 日本脂質栄養学会資料:https://jsln.umin.jp/committee/omega50.html
- 日本脂質栄養学会「毎日のオメガ3脂肪酸で身体能力の維持を」(守口 徹:麻布大学、2021年)
https://jsln.umin.jp/committee/omega5.html - 国際スポーツ栄養学会(ISSN)Position Statement on Omega-3 Fatty Acids for Athletes. Journal of the International Society of Sports Nutrition 2024. DOI: 10.1080/15502783.2024.2441775
- Aker BioMarine「クリルオイルが高齢者の筋力および筋肉量をサポート」(老化の指標 hallmark)
https://www.akerbiomarine.co.jp/results/summary/a28 - Aker BioMarine「アスリートのための進化系DHA・EPA ― SUPERBA Krill™ で整える」
https://www.akerbiomarine.co.jp/results/summary/a19 - McInnis KC, et al. “Omega-3 Fatty Acid Supplementation Attenuates Skeletal Muscle Disuse Atrophy During Two Weeks of Unilateral Leg Immobilization in Healthy Young Women.” FASEB J 2019; 33: 4586–4597.
- Linus Pauling Institute, Oregon State University「必須脂肪酸」
https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/
※本記事に掲載の図解イラスト(図解①〜⑥、⑧~⑩)は、上記資料をもとにAI(nano-banana-pro)により新規に作成したオリジナル画像です。
既存の図版・写真の転載・引用ではありません。※本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の製品・サービスの効果を保証するものではありません。
個別の健康状態については、医療専門家へのご相談をおすすめします。
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