KRPC Ambassador Letter クリルオイルの健康促進と疾病予防の最新情報
[Vol.22]脳は、どんな状態からでも応えてくれる
「以前より長く歩けなくなった」「外へ出るのがおっくうになった」「脚や腰に不安があると、頭の働きまで鈍くなっていく気がする」――こうした声は、年齢を重ねるにつれて決して珍しいものではありません。
歩くという行為は、筋肉・関節・神経・血流、さらには脳に至るまでを総動員する、きわめて優れた全身活動です。
しかし、歩きにくさがあるからといって、脳への刺激や働きかけまで諦めてしまう必要はありません。
身体の状態に応じたかたちで、脳を活かす方法は、まだ十分に残されています。
脳には、使われ方に応じて働き方を変えていく性質、いわゆる「可塑性」があります。
年齢を重ねた後も、新たな刺激や学習、そして運動によって、神経のつながりは保たれ、さらに強められていきます。
つまり、現在の状態にふさわしい刺激があれば、脳はそれに応える力を持っているのです。
今回は、歩きにくさを感じている方にも役立つ「脳の守り方」について、矢澤博士に伺います。
プロフィール
農学博士 矢澤 一良 先生
(Kazunaga Yazawa)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長
| 1972年 | 京都大学・工学部・工業化学科 卒業 |
| 1973年 | (株)ヤクルト本社・中央研究所入社、微生物生態研究室勤務 |
| 1986年 | (財)相模中央化学研究所入所(主席研究員) |
| 1989年 | 東京大学より農学博士号を授与される |
| 2002年 | 東京水産大学大学院(現東京海洋大学大学院) 水産学研究科 ヘルスフード科学(中島董一郎)寄附講座(客員教授) |
| 2012年 | 東京海洋大学 特定事業「食の安全と機能(ヘルスフード科学)に関する研究」プロジェクト(特任教授) |
| 2014年 | 早稲田大学ナノ理工学研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門(研究院教授) |
| 2019年より現職 | |
| ライフワークは、「食による予防医学」、「オール世代フレイル対策」など。 | |
歩く代わりにできる工夫や、脳の働きを支える食事の考え方があれば教えてください。
そして、その刺激を十分に活かすためには、細胞の環境にも目を向ける必要があります。
座ったままでも取り入れられる刺激はありますし、細胞膜の状態や血流、炎症のバランス、さらには栄養状態によっても、脳の反応のしやすさは大きく変わってきます。
第1章|歩けなくても、脳にはできることがある
脳が求めているのは「歩行」ではなく「刺激」
歩ける・歩けないだけで脳の未来を決めないことが、今回の出発点です。

【図版①】歩けなくても、脳にはできることがある
脳は、まったく使われない状態が続くと働きが低下しやすくなりますが、裏を返せば、たとえ小さなものであっても刺激が入れば、それに応じて働こうとする性質を持っています。
年齢を重ねた後でも、学習や運動、新しい経験によって、シナプスの可塑性(※参考1)は保たれ得ることが知られています。
脚を動かし、姿勢を保ち、周囲を見ながらバランスを取り、一定のリズムで進む――その過程で、筋肉・感覚・神経・血流・注意といった多くの機能が同時に働きます。
しかし、本質的に大切なのは、「歩くこと」そのものではなく、脳に必要な刺激が適切に入ることです。
身体活動に加え、知的な活動や社会的な交流もまた、認知的な健康を支える重要な要素であることが示されています。
(※参考2)
手足を動かす、目で物を追う、声を出す、触れる――これらは神経への刺激となります。
また、深呼吸や軽い体操は血流の変化を促し、一定のテンポで足踏みをしたり、声に出して読むことはリズムのある刺激につながります。
このような日々の積み重ねが、脳の働きを支える基盤となります。
実際に、認知機能低下のリスクを抑えるためには、生活習慣への働きかけが重要であることが示されています。(※参考3)
脳にとっては、「まったく行わないこと」と「わずかでも行うこと」との間に、大きな違いが生まれることがあります。
たとえば、足先を動かす、深呼吸をする、短い文章を音読する、誰かとひとこと言葉を交わす――こうした小さな刺激であっても、「今日も使われた」という信号を脳に届けることができます。
その積み重ねが、脳の働きを保つための土台となっていきます。
ほんのわずかな一歩でも、脳にとっては確かな意味を持つのです。

【図版②】脳が求めているのは「刺激」
第2章|脳への刺激は、大きく分けられる
リズム・全身系の刺激と、認知・精密系の刺激
歩行が難しい日でも、二つの刺激軸を分けて考えると、できることが見えてきます。
ひとつは、歩行や足踏み、呼吸、軽い体操などの「リズム・全身系の刺激」です。
もうひとつは、手指を細かく動かす、会話をする、音読する、書く、考えるといった「認知・精密系の刺激」です。
これらはどちらも脳にとって大切な働きかけであり、必ずしも両方を完璧にそろえる必要はありません。
今の状態に合わせて、いずれかを取り入れるだけでも、十分に意味があります。
一定のテンポで足踏みをする、深呼吸をする、肩や腕を左右交互に動かす――こうした動きは、筋肉や関節だけでなく、心拍や呼吸、覚醒度、さらには注意の向けやすさにも影響を与えます。
こうした基盤が整うことで、脳が働きやすい状態を整える“下支え”のような役割を果たします。

【図版③】脳への刺激は2つに分けられる
これらの活動では、言語、記憶、注意、判断といった複数の認知機能が同時に働きます。
また、音読・計算・対話を組み合わせた学習療法(※参考4)が、前頭前野の活性化とともに紹介されています。
こうした刺激が重なり合うことで、脳はより立体的に働くようになります。
大切なのは、今のご自身にある“入り口”から、脳を使い続けることです。
たとえどちらか一方しかできない日があったとしても、それは「できなかった」のではなく、「その日にできるかたちで脳を使うことができた」と捉えていただきたいのです。

【図版④】小さな刺激でも脳は応える
第3章|同じ刺激でも、効き方に差がでるのはなぜ?
刺激を受けとる側の「細胞環境」が反応を左右する
刺激は大切ですが、その刺激を活かす土台が整っているかどうかも見逃せません。
疲労が強い、睡眠が浅い、炎症が続いている、血流が十分でない、栄養状態に偏りがある――こうした条件が重なると、同じ刺激であっても、その届き方や活かされ方に差が生じやすくなります。

【図版⑤】なぜ同じ刺激でも差が出るのか
この細胞膜は、硬すぎても、逆に弱すぎても適切に機能しません。重要なのは、「しなやかさ」と「安定性」のバランスです。
細胞膜は主にリン脂質の二重層によって構成されており、その流動性と安定性のバランスが、情報伝達の効率を左右する重要な要素であるとされています。(※参考6)

【図版⑥】神経細胞と細胞膜の関係
神経細胞は、膜の外側と内側の状態差を利用して信号をやり取りしています。また、隣接する細胞との情報伝達の場面においても、膜の性質が大きく関わっています。
そのため、膜が適度なしなやかさを保ち、必要な物質をスムーズにやり取りできる状態にあることは、神経の応答性を支える基盤のひとつとなります。
活動量や食事、睡眠、炎症の状態、ストレス、血流など、さまざまな要因の影響を受けながら、細胞が働く環境は日々変わっていきます。
そのため、刺激は無理のないかたちで小分けに取り入れ、細胞環境そのものは日々の生活の中で整えていく。そのような考え方が大切になります。
第4章|細胞膜と脂質、そしてオメガ3をどう考えるか
脳を支える材料としての脂質を見る
刺激を活かすには、細胞の材料にも目を向けたい。ここではオメガ3の位置づけを整理します。

【図版⑦】脂質バランスで膜のしなやかさは変わる
脂質は、細胞膜を構成する重要な材料のひとつです。
大切なのは、「脂質をとるか、とらないか」ではなく、どのような脂質を、どのようなバランスで取り入れるかという点です。
一般的に、飽和脂肪酸が多いと膜は硬くなりやすく、不飽和脂肪酸が多いと、しなやかさを保ちやすいと考えられています。(※参考6)
認知機能との関わりにおいては、日々の食事を基盤としながら、状態に応じて上手に取り入れていくことが大切です。

【図版⑧】オメガ3の役割
ひとつは、細胞膜のしなやかさを支える「材料」としての役割。
二つ目は、神経伝達の土台を整える側面。
そして三つ目が、炎症バランスや血流環境に関わる側面です。
今回は全体像に触れるにとどめますが、次号ではDHAについて、さらに詳しくご紹介する予定です。
そのひとつが、リン脂質と結びついた形です。
リン脂質は細胞膜の主要な構成成分であるため、膜との親和性という観点から関心が寄せられています。
ただし、ここで大切なのは特定の製品に注目することではなく、「脳への刺激を活かすためには、細胞の材料にも目を向ける必要がある」という考え方です。
外からの刺激と、内側の環境の両方を整えることが、脳の働きを支える鍵になります。
第5章|今日からできる、脳への働きかけ
無理なく、日常生活の中でできることから始める
大げさでなく、日常の中に自然にとりいれられることから始めてみる
脳のための取り組みは、誰かと比べる「がんばり競争」ではありません。
大切なのは、今の自分にできるかたちで、無理なく続けていくこと。

【図版⑨】座ってできる実践例
座ったままでの30秒〜1分の足踏み、4拍で吸って4拍で吐く呼吸、指を一本ずつ折ったり開いたりする動き、1段落だけの音読、その日の出来事をひとつ誰かに話す――いずれも短い時間で構いません。
大切なのは、「できた」という感覚をきちんと残すことです。
たとえば、朝の歯磨きのあとに足踏みをする、昼食前に深呼吸を行う、テレビのニュースの前に手指を動かす、夕食後に音読を取り入れる――といったように、すでにある行動の流れの中に組み込んでいきます。
記録も、カレンダーに丸をつける程度で十分です。
もし続けられない日があったとしても、気にする必要はありません。翌日にまた戻ることが大切です。無理なく続けることが、結果的に大きな力となっていきます。
極端に偏らず、たんぱく質、野菜、海藻、豆類、魚介類などをバランスよく取り入れた食事を心がけましょう。
なかでも、魚を食べる機会が少なくなっている方は、その点を見直すだけでも十分に意味があります。日々の食事を整えることが、脳の働きを支える土台となります。(※参考5)
脳は、会話にも、呼吸にも、手の運動にも、音読にも応えてくれます。
そして、その応えやすさは、日々の生活や栄養、細胞環境によっても左右されます。
合言葉は、「使うこと」と「支えること」。
その二つを、今のご自身にできるかたちで、少しずつ積み重ねていくことが大切です。
まとめ
- 歩けなくても、脳にはできることがある
- 脳が求めているのは「歩行そのもの」ではなく「刺激」
- 刺激は「リズム・全身系」と「認知・精密系」に分けて考えられる
- 刺激を活かすには、細胞膜・血流・炎症バランスといった細胞環境も重要である
- オメガ3は、細胞膜の材料や環境を考えるうえで押さえておきたい視点のひとつ
大切なのは、以前の自分と比べて嘆くことではなく、今の自分にできる方法で、脳とのつながりを保ち続けることです。
座ったままの足踏みでも、ゆっくりとした呼吸でも、誰かとのひと言の会話でも構いません。そこから、十分に始めることができます。

【図版⑩】今回のポイントまとめ/次号予告
-
- 東洋大学「シナプス可塑性」
https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/life/synapticplasticity/ - National Institute on Aging, Cognitive Health and Older Adults
https://www.nia.nih.gov/health/brain-health/cognitive-health-and-older-adults - WHO Guidelines on risk reduction of cognitive decline and dementia
https://www.who.int/publications-detail-redirect/risk-reduction-of-cognitive-decline-and-dementia - 政府広報オンライン「学習療法」
https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201809/201809_06_jp.html - eJIM(厚生労働省)オメガ3系脂肪酸
https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/10.html - クリルオイル振興協会「細胞膜」
https://www.krilloil.or.jp/contents/cont_vol008.php
- 東洋大学「シナプス可塑性」
ご留意事項
本コンテンツは健康情報の一般的な紹介を目的としており、個別の診断・治療・医療上の判断に代わるものではありません。オメガ3や食事に関する話題は、特定製品の訴求ではなく、細胞環境を考えるための基礎的な視点として掲載しています。
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